君の世界からわたしが消えても。

 ……葉月があいつを想うことでつらい顔をしているなら、もうあいつなんてやめちまえよって、言いたかった。


 一緒に逃げてやろうって、そう思ってた。


 けど、そんなことを俺が言っちゃいけないって、今日の葉月を見ていてそう思った。


 決めるのは葉月で、受け入れるかどうかは奏汰次第だ。


 もし、これからなにが起こったとしても、誰のせいにもできない。


 後悔なんてつきものだって、今の俺たちは知っている。


 葉月の決めたそこに奏汰の意志はないが、誰も、誰かのせいにすることなんてできないって知っている。


 当たり前の日々なんて、やって来ないことも。


「なあ、葉月」


 見慣れた葉月の横顔に、そう声をかける。


 目線だけで返事をした葉月に「明日は学校来いよ」なんて言って、頭を撫でた。


 嬉しそうな顔をした葉月の顔。


 その黒い目には、喜びが宿ってる。


 話すのって、気持ちをぶつけるのって、こんなに疲れるもんだったか。


 今日だけで一生分話したんじゃねーかってくらい、疲れた。


 ……もっと、今までもっと。


 ちゃんと葉月の隣に立って、話を聞いて、自分の気持ちもたくさん話しておけばよかった。


 俺らしくもないそんなことを考えながら、ずしりと重さを感じる葉月から受け取ったペンダントと携帯電話をポケットに押し込めた。


 ……ずるいのは、誰だろう。


 エゴってなんだろう。


 そんなことを考えながら、俺は俺らしく、最後まで自分のエゴを貫こうと思った。


 誰かを傷つけるかもしれないが、誰かを救うための、そんなエゴを――。

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