君の世界からわたしが消えても。

「それじゃあ、ミヅキ。またね」


 ミヅキに手を振り、そこから離れる。


 わたしは、足早にイチの前を歩く。


 泣かないと決めていた。


 だけど、泣きそうになった。


 なぜなのか、そんなの、理由はわたしが一番よく知ってるくせに。


 ずるいってわかってるのに。


 今さらカナが好きだったなんて伝えたこと。


 戻ってきてほしいなんて、言ったこと。


 情けないほど歪んだ顔は、イチにもミヅキにも見られたくない。


「葉月」


 少し後ろから聞こえた声、腕を引かれて傾いた身体。


 ほんのり香る、汗の匂い。


「誕生日、おめでとう」


 耳に触れた熱い吐息に、鼓膜を震わせる優しい声。


 いつの日からか我慢していた涙を、わたしはやっと流すことができた。


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