君の世界からわたしが消えても。
イチに続いて入った病室は気味が悪いほどの静けさで、空気が冷たかった。
たったひとつ、ぽつりと置かれたベッド。
そこに寝かされている人の顔を覗き込むまでは、それが本当にカナだってことを信じられなかった。
実際に顔を見ても、これは一体誰なんだろうと思った。
繋がっている点滴。
頭には包帯が巻かれていた。
きっと布団で隠れている腕や脚にも、それは巻かれているんだろうと思った。
規則的な機械音に包まれた病室。
漏れる息の音。
全てが夢なんじゃないかと思ったのを、覚えてる。
……カナは、目を覚ましてなんかいなかった。
事故の日から一度も目覚めないまま今も眠ったままだと、イチは消え入りそうな声で言った。
頭のどこかでは、もしかしたらカナはまだ眠ったままなんじゃないかって、悪い想像もしていた。
覚悟しなくちゃいけない、受け止めなくちゃいけないって思ってた。
でも、実際にそれを目の当たりにした時は、立ち尽くすことしかできなかった。
つらかったし、苦しかった。
それでも、その日以来、時間があればカナのところへ通うようにした。
早く目を覚ましますように、と願いながら見守ったし、語りかけた。
日を追うごとに減っていく包帯の数。
目を覚まさないのに髪や爪は伸びて、傷もだんだん癒えていく。
そんな様子を見て、『ああ、生きてるんだ』ってほっとした。