君の世界からわたしが消えても。

 わたしは知らず知らずのうちに、大きな選択の場に立たされていたんだと、今さらながらに知った。


 カナの病室を開け放ったあの瞬間に、選択の舞台に立ったんだ。


 そして、とっさに“奏汰”と呼んだ時、わたしは答えを選んでしまった。


 “ミヅキ”として、生きることを。 


 ……でも、それはもう後の祭りだ。


 考えたって仕方のないことだし、これから今後の対策を考えればいい。


 そう思うようにするしかない。


 どっちにしろ、カナがわたしを“ミヅキ”と認識している事実は変わらないんだし……。


 それに、カナのことはまだほとんどなにもわからない。


 おじいちゃん先生も、カナにはなにも異常がないように思って、少しばかり安心していたと言っていた。


 でも、実際はそうじゃなかった。


 そもそも、正常なのかそうじゃないのかなんて、いろんな状況にぶち当たった時にしかわからない。


 今、カナについてわかっていることは、わたしが“ミヅキ”だと思われていること、事故に遭ったことや自分の名前を憶えていることだけだ。


 カナの中の“ハヅキ”という存在がどうなっているのか、イチのことは覚えているのか……。


 それは、まだわからない。

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