夢見るきみへ、愛を込めて。

「も、目的は……」

「目的?」


ぱっと私に目を遣った彼に思わず後ずさりそうになった。しかし彼は左に向けた視線を足元に落とし、何やら自問自答しているようだった。


今度は考え込むのか。行き当たりばったりの行動でもなければ、そんな必要はないと思うのだけど。


「俺のことを知ってほしい!」


唐突に笑顔になった彼はくるりと手首をひねり、手の平を上にすると同時に人差し指で私を指した。これでどうだ、と納得を求められた気分の私が、表情を和らげるはずもなく。


「あれ? ダメ? 嘘じゃないんだけど……そうだよね。こんないきなり現れても、誰だよってなる……から、知ってほしいって言ったんだけど、ダメか……ちょっと待って考える」

何に窮しているのか知らないけど、計画性皆無だということはよく分かった。

「俺、怪しいもんな……。自覚はあるんだけど、怪しい者じゃありませんって気持ちもあって、」


暫くこめかみを押さえていた彼は意を決したように顔を上げる。


「でも知ってほしいのは本当だから。それだけ! じゃ、また来ます!」


えっ、来るの!? ほとんど言い逃げの形で走り出した彼が曲がり角に消えると、一気に力が抜けた。


「なんだったの……」

めちゃくちゃ過ぎやしない? それだけ、って。知ってほしいと告げれば満足して帰る、そんな引き際のいいストーカーっている?

でも、また来るってことは……。ちらりと、目と鼻の先にあるマンションを見上げる。


逃げ込もうと思えばいつでもできたのに、そうしなかったのは彼が朝方ゴミ捨て場の近くにいたことを、たまたまだと思いたかったから。


住んでいるマンションは割れているらしく、痛む側頭部に眉を寄せた。
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