夢見るきみへ、愛を込めて。

自分をストーカーと示すのなら、そこはもう納得してあげよう。だけど理由は、あなたが口にしない心の声は、聴いてあげられない。


「私が逢いたいって思うのは、世界でひとりだけです」


風が吹いた。冬の匂いが混じった、体の芯まで凍てつくような空気の流れ。大好きな冬。


永遠に続けばいいと思う。そんなこと言ったら困ったように微笑んで、風邪を引いてしまうよと私を抱きしめてくれる。そんな人はもう一度だって、現れない。


「あなたには逢いたくありません」


今度こそきっぱりと伝えた。目を見て、静かに。私の世界は、夢さえも、たったひとりで満たしていたいのだと。


彼は何も言わなかった。悲しそうに顔をゆがめ、そのくせ目を逸らそうとはしなくて、私から背を向けた。


とん、と階段を下り、肺いっぱいにゆっくり冬の空気を吸い込んでから、全開になった自動ドアの間を通り抜ける。気持ちは落ち着いていた。新調した家の鍵を取り出し、エレベーターのボタンを押す。


『ハル』と、頭の中で“私”を呼ぶ声がする。もちろん空想の世界での話で、実際に呼ばれているわけじゃない。


それでも繰り返しハルを呼ぶ声や姿を思い描けば、亀裂の入った世界が修復されていく。


「……大丈夫」


大丈夫だ。忘れてない。色褪せてない。
不必要なもの全て追い出してしまえば世界は保たれる。


そうでしょう? いっくん。


今夜もあなたを想って眠りにつく。どうか夢の中まで、逢いに来て。



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