夢見るきみへ、愛を込めて。

今日は朝から頭痛がして、食欲もなかった。だからって倒れるほど自己管理が甘いわけではないのだから、悪いよ、と返すことはできた。

でも翠はいつも真剣に心配してくれる。優しく、してくれる。私の奇妙な力を超直感と名付けて、気味悪がらずにいてくれる。利用せずにいてくれる。


「ありがとう」


心の底からいつも言っていることを、翠はきっと知らない。私は本当のことを言わずにいるのに、いつだって笑い返してくれるように。


「じゃあ、先帰るね」

「うん、いいよ! こんな人に頭なんか下げなくて!」

「おまえ、俺への態度が散々すぎやしねえか」


翠は関城先輩と顔を合わせたまま手を振ってくる。私は少し疑問に思いながらも微笑んで、ずっしりと重いビニール袋を両手に抱えその場をあとにした。


遠くなる翠の怒った声が完全に聞こえなくなってから振り返ってみるとふたりの姿はなかった。


「近づくな、か……」


私が辞めたあとに入った新人のバイトくん。関城先輩。性格は少々キツそうだけど、悪い人ではないんだろう。

それでも翠が近づくなと念を押していたのは、きっと私が昔から親しい人を作ろうとしないせいだと思う。それを翠は察していて、事あるごとにフォローしてくれる。人見知りだとか、適当な理由をつけてまで。


本当は極力、夢に見たくないってだけなのにね。


外へ一歩踏み出すと空はすっかり黒く塗りつぶされていて、ロータリーを煌々と照らす電灯の明るさに目を細めた。


ああそれにしても、頭が痛い。
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