俺様管理人とイタズラな日々



物語は数日前に遡るーーー







母を幼い頃に病気で亡くし、小さなアパートで父とふたり暮らしをしている一瀬彩芽[イチノセアヤメ]は、いつものように夕食の支度をしながら父の帰りを待っていた。





そして、丁度支度が全て終わった頃、玄関の鍵が開く音と

「ただいま」

という父の声が聞こえた。



「おかえりなさいっ」


会社から帰ってきた父を彩芽はいつものように笑顔で迎えたが、父はどこかぎこちない笑顔を返した。




その様子に彩芽も違和感は感じたが、

(仕事の疲れが溜まってるのかな?)

と、あまり深くは考えずに、その後いつものように夕食をとり始めた。










ここまでは、全てがいつも通りだった。





しかし、彩芽がいつものようにいられなくなったのは、夕食の時の父の話を聞いてからだった。













「…彩芽。お父さんさ、海外に転勤することになったんだ」





その言葉は、何気ない会話の中で唐突に発せられた。



「へー。……ん?海外!?」


父があまりにも自然な形で口にするものだから、彩芽も反応が若干遅れてしまった。




「な、なんで急に?」

「今度、海外の会社と共同で行うプロジェクトに抜擢されてさ。…お父さん悩んだんだけど、その誘いを受けることにしたんだ」

「…そうなんだ」


あまりのことにすぐには頭の整理がつかなかった彩芽だったが、深呼吸した後父が転勤することによって自分が受ける影響について考えた。




「じゃあ、私も今の学校を転校することになるのか…」


そう考えると、なんだかとても寂しくなった。



今の学校には仲の良い友人もいたし、2年生に進級したばかりで後輩もでき、今後の学校生活に心が踊っている最中でもあったため、残念な気持ちも大きかった。


しかし、父子生活が長い彩芽は、父の仕事の都合なら仕方が無いとわりとすぐに割り切ることができた。





「海外で友達できるかなぁ」

「…そのことで、彩芽に話したいことがあるんだけど」

「ん?なあに?」

「海外にはお父さんひとりで行くことにした」



その言葉に彩芽は目を見開いて驚き、数秒間思考も全て停止してしまった。




「彩芽…大丈夫か?」

「ななななななんで!?」


心配そうな父の言葉も耳に入らず、彩芽は動揺を隠せずに聞いた。



「向こうに行ったらお父さんはこれまで以上に仕事中心の毎日になるから、帰るのだって遅くなるし会社に泊まることだって増えると思うんだ」

「でも、そんなの今だって同じじゃんっ」

「言葉も通じないし日本程治安も良くない向こうで、彩芽をひとりにしておくのは心配なんだよ。それだったら、しばらく会えなくなるけど日本にいてくれた方がお父さんは安心できる」


そのことに対し、まだ何か言いたそうな彩芽だったが、

「分かってくれるよな?」

という父の言葉で、言いかけていたことを全て飲み込んだ。



そして、小さく頷き、不安そうな顔をしている父を安心させるために笑顔を作った。




「じゃあ、私は転校しなくていいんだよね?」

「いや。実は、もう新しい学校も決めてあるんだ」

「…はい?」

「ひとり暮らしなんて心配だろ?だから、お父さんが学生寮のある学校を探しといてあげたから安心してな」



笑顔からポカーンとした表情になった彩芽に気づかず、父は

「今の学校の先生に話したら、彩芽は成績が優秀だから学校側から推薦してもらえるそうだ。よかったな」

と、マイペースに話した。




自分の知らないところで話が進んでいたことなど、父に対して言いたいことは山程あったが、その時の彩芽にはそれを言える程の余裕はなかった。






そして、その後話は進み時も流れ、父は彩芽を残して日本を発ったーーー



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