愛してもいいですか



車へ戻り、早速たい焼きを取り出しひとつを彼女へ手渡す。するとその細い指先はそっとたい焼きを半分に分ける。



「はい、日向。半分」

「ありがとうございます」



その名の通り、抹茶色のクリームとつぶあんが中に詰まったそれは、一口食べると濃い抹茶の味が広がった。



「ん、おいしい」

「はい、甘すぎずなかなか……」



さすが和菓子屋の名店『餡子屋』だ。今度買いに行くよう言われた時は、これも買って行こう。

味に納得しながら口をもぐもぐとさせる俺の隣の助手席では、架代さんが美味しそうにたい焼きを頬張っている。

その幸せそうな笑顔は、先程柴田社長に見せていた愛想笑いとは全く違う。可愛らしい表情だ。その可愛さに俺の頬もつい緩む。




俺は知っている。『親の七光り』なんて言われている彼女が、人一倍努力していること。そんな言われ方をして、誰よりも悔しいこと。

だってそう。用意された椅子に座るだけじゃ、会社なんて動かせない。若くしてこの立場にいるということは、周りの何倍も勉強しているということ。



時々は弱くて、周りとの距離にへこむこともあるんだろう。それでも強くいようと、彼女はまた前を向く。

だからこそ俺は、架代さんの秘書でいられるんだ。



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