愛してもいいですか



「……ありがとね、日向」

「え?」

「この前。あんたが『間違ってない』って言ってくれて、安心した。……嬉しかった」



どうして、日向はいつもほしい言葉をくれるんだろう。優しい目で、あたたかい。

そのぬくもりが、心を素直にさせる。



「……あなたのこと、否定するわけがないです」



上から降る声に、涙を浮かべたまま視線を日向のほうへ向けると、優しく微笑む顔がある。



「ひとつ聞いてもいいですか?架代さんって、あの人のこと好きだったんですか?」

「え……?」



好き、?

唐突な日向からの問いに、思わず一度考えてしまう。



『好きなんです、宝井さんのことが』



私は、松嶋さんのことをどう思っていただろう。男性として、好き?……ううん、違う。

考えたままの私に、日向は心を見透かしたように呟く。



「俺、思うんですけど……たぶん仕事が大切だからあの人を選べなかったんじゃない。あの人へ愛情がないから、選べなかったんだと思うんです」



選べなかった理由は、仕事が大切だから。でもそれ以上に彼への想いがなかったから。



そう、だ。

彼の言葉は嬉しいし、安心感を感じられる人。だけどその手をとれなかったのは、私自身が彼を愛していなかったから。

愛があれば、分かり合おうとしたかもしれない。安心感ばかりを求めて、焦って、大切なことを見逃していたんだ。



優しいから、嬉しいから、だから結婚するんじゃない。好きだから、一緒にいたいから結婚したいと思うのだろう。

傷付いて、恐れて、そうするうちに見失っていた。きっと日向も分かっていた。だからこそ常に、あんなつっかかるような言い方をしていたんだ。



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