愛してもいいですか



相変わらず嫌な噂だな……。いや、でも『捨てられた』はあながち間違いでもないのかもしれないけど。

あの日俺は、社長秘書をクビになったのだから。



全てが、いきなりだった。

先日架代さんから抱きついてきたことから少し様子が違う気もしたけど……敢えていつもと変わらぬ態度をとっていたのが悪かったのだろうか。



『……お願い。抱いて』



あんなことを突然言い出したりして、キスも、した。



思い出す彼女の唇。交わしたキスは、柔らかく、甘く、切なく胸を締め付けた。好きな人とのキスがあんな形で、なんて悲しすぎる。

けど、出来るものならあのまま最後までしたかったと思わなくもない……ってアホか俺は!!

邪心を払うようにガンッ!!と頭を壁に叩きつける。



「ひゅ、日向くん!?大丈夫!?」

「は、はは……大丈夫です」



突然の俺の行動に西さんは驚いたように声をあげた。



……架代さんだったら、こんな風に大きく驚いて心配したりしないんだろうな。

しれっとした顔で『なにしてるのよ』って少し引いたように見て。少し冷たい言い方をしながらも、『バカじゃないの』って笑うんだ。

彼女の笑顔を思い出し、心は音をたてる反面また落ち込む。



そんな彼女相手に、最後まで出来るわけなんてない。

あのキスですら俺にとっては精一杯の勇気で、本当はあの時跳ね除けてほしかった。『やっぱりやだ』って、拒んでほしかった。

だけど結局、拒んだのは俺のほう。だって、彼女の本音とは思えなかったから。どこか、自分を傷つけようとしているようにしか見えなかったから。



……けど、それで異動になってちゃ意味ないよな。

『異動だから』と伝えられたあの時も、気持ちを伝えたくて、その本音を聞きたくて、腕を掴み止めたのに。……結局なにも、言えなかった。



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