素敵な勘違い 〜負け組同士のラブバトル〜
「俺、そんな事言ったか?」

「言いました。間違いなく」

「そうか。それはたぶん、お前を安心させるためだろうな」

「じゃあ嘘だったって事?」

「まあ、嘘でもないけどな。俺ってさ、基本、超がつくほどの美人じゃないと萌えないんだよね。困った事に」


確かに、時々アパートに来る阿部和馬の彼女は、それこそ超がつくほどの美人だと思う。年令はちょっと上のように見えるけど。


「それは私だって同じだわ。私も超イケメンじゃないと好きになれないの。困った事に」

「だろうな。じゃあ、やめるか?」

「ううん、やめない。だから言ったでしょ? あんたで妥協するって……」

「そうか。じゃあ俺も妥協するよ。いや、ボランティアかな」

「そんな動機で本当に出来るの? 男の人って、興奮しないと出来ないんでしょ? よくは知らないけど……」

「それはたぶん大丈夫。ココを見たり触ったりすれば……」


そう言って、阿部和馬は視線を少し下げた。ココってどこだろうと思ったら……


「む、胸?」

「そう。お前ってさ、全体的にはスリムだけど、胸だけは大きいよな?」

「そ、そんな事は……」


あるけどね。威張る事でもないと思い、私は恥ずかしがる振りをした。


「俺は最初から気付いてた。正直、また触りてえなと思ってたんだ」


最初って……ああ、私を万引きした男の子達の仲間と間違えて、コートの中に手を突っ込んだあの時か。


「あれ、わざとでしょ? この、スケベ!」


阿部和馬の頭を叩こうと私が手を上げたら、その手首をガシッと彼に掴まれてしまった。そして、


「お喋りはこれぐらいにしようぜ?」


それまでとは違い、低い声で阿部和馬は言った。それが私には、試合開始のゴングに聞こえた。

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