素敵な勘違い 〜負け組同士のラブバトル〜
その後は上の空で、仕事も手に付かないほどだった。

あれは本当なんだろうか。今だに信じられない。もしかして、曽根崎さんにからかわれたんじゃないかしら?

そんな気がするけど、それを打ち明けて意見を聞けるほど親しい同僚はいない。前はいたのだけど、少し前に寿退社してしまった。口の軽そうな後輩に言うのはもってのほかだし……


まもなく定時になろうかという頃、私のパソコンに社内メールの着信を告げるポップアップが表示された。すぐにメーラーで開けば、果たして曽根崎さんからのメールだった。


メールには、今日の待ち合わせの場所と時刻が書かれていた。場所はここから結構離れた駅の、と言っても私の通勤途中だけど、駅前にあるらしい喫茶店。時刻は、定時で上がればちょうど着く頃の時刻だった。


やっぱり本当だったんだ……


斜め前にこちら向きで座っている曽根崎さんを見ると、まっすぐ前を向き、パソコンの画面を見ているようだった。当然ながら私の視線に気付いてるはずなのに、まるで知らん顔をしている。よほど秘密にしたいらしい。当然かもしれないけど。


ふと私はある事を思った。それは今日の服装だ。つまり、Tシャツにジーンズにスニーカーという、まるっきりの普段着で会社に来ているという事実。

それはいつもの事ではあるけど、まるでデートには不向きな服装と思われる。まして相手はイケメンで、スーツをビシッと着込んだ曽根崎さんでは。

私は急いでメールの返信を打ち始めた。もちろんお断りのためのメールを……

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