素敵な勘違い 〜負け組同士のラブバトル〜
「いいえ、それは後にします」


“あなたが帰った後で”と続けたいところだけど、それでは催促してるみたいだと思って言わなかった。


「そうか? ま、それもいいか。俺も早くやりたいし……」


曽根崎さんは、そんなわけの分からない事を呟くと、いきなりローテーブルを横にズズッて感じでずらした。


「え、ちょ、ちょっと……」


自分の麦茶が揺れてこぼれそうになり、慌てる私。そのせいもあって私の反応は遅れてしまい、あっという間に曽根崎さんに組み敷かれてしまった。


「な、何をするんですか!?」

「そのナニだよ。君だってそのつもりだろ? 今になって“そんなつもりじゃなかった”なんて言うなよな?」


と上から言われたけど、私は正にそれを言いたかった。


「本当にそうなんです。私は、そんなつもりじゃ……」

「黙れ!」

「ひぃっ」

「ガキじゃあるまいし、男を部屋に呼び入れたら、こうなるのは分かってたはずだ。観念して大人しくやられろ。もっとも、俺としては嫌がる女とするのもいいけどな。たまには……」

「すみません。でも本当に嫌なんです。勘弁してください」

「嫌だね。俺はもうその気になってんだよ。特にこの大きい胸によ……」


そう言って曽根崎さんは、Tシャツの上から私の胸をムンズと掴んだ。


「イヤ! 助けて、阿部和馬!」


と叫んだものの、すぐに曽根崎さんの手で口を塞がれてしまった。


「大声出すな! 誰か来たら、お前だって恥をかくんだぜ?」


別に恥をかくぐらいは構わない。でも、とても腕力では曽根崎さんに敵うとは思えず、こうなったのも自業自得と思われ、私は抵抗する気力を失っていった。

せめてもの救いは、これが“始めて”ではないという事。始めては阿部和馬とで良かったな、と思った。


「おお、観念したみたいだな」


曽根崎さんの手が、無遠慮に私のTシャツの中に入って来た。私はそのおぞましい感触に、目をつぶって耐えようと思った。

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