素敵な勘違い 〜負け組同士のラブバトル〜
「おい、いきなり何すんだよ!」


曽根崎さんが、阿部和馬の肩のあたりをドンと手で突いた。阿部和馬は少しよろけたものの、キッとした目で曽根崎さんを睨み返した。


「おめえは誰だ?」

「俺ですか? 隣の住人ですが、何か?」

「なに勝手に入って来てんだよ? しかも俺を蹴飛ばしやがって、警察を呼ぶぞ?」

「警察? いいですね、どうぞ呼んでください」

「いいのかよ? そしたらお前、傷害罪で捕まるんだぜ?」

「それはどうですかねえ。俺よりもあんたが逮捕されますよ。強制わいせつ罪で」

「なんだと? 俺はそんな事はしてない。第一、この女の方から俺を家の中に入れたんだ」

「確かにそうかもしれません。それについては彼女にも落ち度があった。しかし、だからと言って嫌がる彼女を無理やり犯していいという道理はない。彼女が助けを求めたのを俺はしっかり聞いてますしね。どう考えても強制わいせつ罪で起訴出来ますよ。そうなると6ヶ月以上10年以下の懲役。たとえ初犯でも実刑になる事が多い」


うわあ。さすがに弁護士を目指してるだけの事はあるわあ。あ、弁護士じゃなくて検事だったわね。


「う……」

「警察を呼びますか?」

「い、いや、いい。俺は帰る!」


そう言って、曽根崎さんは上着と鞄を慌てて拾い上げ、逃げるようにしてアパートを出て行った。

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