手をのばす
その後私は小走りで美容室に向かっていた。

沙耶との約束の時間に遅れそうだった。



思いのほか沢渡の店に長居をしてしまった。

もしもあの女性スタッフが沢渡の彼女だったら、ううん沢渡を好きだったとしたら。


私よりもずっと長い時間を、あのひとは沢渡と共有しているんだ。


気のせいかもしれない、でもそうじゃないとも言い切れない。


そう思うとぐずぐずとすっかり冷めたコーヒーを飲んで、なかなか席を立てなかった。


目的の美容室が見えてきた。沙耶がこちらに気づいて手を振っている。

「おはよー由紀子。そんなに急がなくて大丈夫だよー」

「おはよう。ごめん遅くなって。入ろうか」

息を整えながら途切れ途切れでそう答えた。


「うん!ねー由紀子は今日髪どんな風にやってもらう予定?」

「うんと毛先を軽くして、パーマもかけなおしたいなあと・・・あ、もしかしたらちょっと時間かかっちゃうかも。もし待たせたらごめんね」

「あ、それは大丈夫。気にしないで」


まっすぐの黒髪をかきあげた沙耶の手に光る指輪を見たとき、あっと思った。
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