手をのばす
一人アパートにたどり着いて、後ろ手でドアを閉めると、どっと疲れがでた。


自分の意気地なさを棚にあげて、沙耶に嫉妬している。

そんなことは分かっている。

だけど抑えきれない。



沙耶は今頃、沢渡にはじめてのメールでも送っているのだろうか。

こんなことでも激しく嫉妬していて、万が一二人が付き合い始めてたら、私はどうなってしまうのだろう?


それを想像しただけで胸が痛い。苦しい。


とっさに携帯電話を取り出した。

いっそのこと沢渡に自分の気持ちを伝えてしまおうか。

どうせだめでも、そのほうが自分はよほど救われるんじゃないか。


メモリから沢渡の名前を探し出した。


あとは発信ボタンを押せば、沢渡に難なくつながる。

きっと「どうした?」って、あの優しい声で、ささやいてくれる。


でも・・・・・・出来ない。


怖い。沢渡がどんな反応をするかを考えると、怖くて手がふるえてしまう。


電話を握り締めたまま、玄関にしゃがみこんだ。


沙耶からもらった指輪をずっしりと、重く右手に感じていた。
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