一生に二度の初恋を『あなたへ』
・崩壊したものー尚side
「尚はここにいて」
その言葉が始まりだった。
「お父さんが浮気したの。母さんね、捨てられちゃったの。雷斗にも。尚はずっとずっとここにいてくれるよね?」
「出せよ母さん!!」
外からしか開かないドア。
何度も殴った、蹴った。
そんな俺の抵抗をものともしない頑丈なドアだった。
父さんが浮気?そんなことする訳…ないだろ?
だって母さんと父さんは俺が生まれてからも父さんが仕事の合間を縫って帰って来てはキスして、俺と弟も呆れるほどだった。
「尚は母さん捨てないよね?」
静かに、ただ何度も壊れた音楽機器のように呟く母さん。
ドア越しに、何で母さんの声は俺に届くのに俺の声は母さんに届かないのだろうか。
言葉ってこんなに無力なものだったか?
あぁ、もう疲れた。
俺は、佐藤 春を見つけた後、久しぶりにたまたまその場所の近くにあった実家に戻った。
佐藤 春。どうな生活を送っているのか、陸上部らしいからとそこの学校のグラウンドまで行って覗いたが「春」と呼ばれている人は別人だった。