どきどきツンデレーション
第1章

私のバカバカ、大キライ

すき、だいすき
口にするのは簡単な愛の言葉は、彼の前になると難しくなる。

きらい、だいきらい
こっちは簡単なのはどうしてかな?

素直になれない自分が大キライ
こんな自分、消えちゃえばいいのに

素直で可愛い自分になりたい
こんな自分消えちゃえ、消えちゃえ!!



「ああああぁ」
「いい加減うるさいわよ、ミク」
「だって…」

机に伏せた顔をのそりと持ち上げれば、やれやれといった調子の呆れ顔の奈美恵。ながーい自己嫌悪。私の悪い癖。

「とりあえず、謝ってくれば?」
「…それができたら苦労しないわよ」

昨日、彼氏と喧嘩した。
付き合ってまだ1ヶ月も経ってないのに、もう三度目、原因は自分。

「絢音は私の前ではこーんなに素直で、可愛いのにねえ」
「そ、そんなことないって!」

にゃはは、と豪快に笑う奈美恵には三年生の彼氏がいる。その先輩がこれまたとってもカッコいい人で、本人は否定するけどこの学校では美男美女カップルとして注目も高かったり。羨ましい。

「…よっぽど、私には奈美恵の方が美人だと思うけど」
「え?……あ、圭一くん帰ってきたよ」
「へ?!!」

ガラ、教室に入ってきた圭一とバッチリ目が合う。圭一は少し遠慮気味に手を振ってくれたけど、私はつい、おもいっきり顔を背けた。

「あーあ、圭一くん悲しそうな顔」
「ううぅ…」

再び机に項垂れる私の頭を、奈美恵はポンポンと優しく撫でた。
圭一、佐倉圭一は私の家の玄関から歩いてすぐのご近所さん。所謂、幼馴染み

幼稚園の頃から仲良しで、昔は手を繋いで登校もしていたけど今じゃ絶対、絶対に無理だ!

『佐倉ってさあ、圭一のこと好きだろ』

私のひね曲がった性格は、思えば、小学二年生の時のアレが原因だったのかもしれない。

元々名字が一緒のこともあって、二人は結婚してるの?とかラブラブ!だとか。慣れてるはずなのに。その日はクラスの男子に囲まれて、大声ではやされて、私は恥ずかしくて、つい負けないくらいの大声で否定してしまったのだ

『圭一のことなんか、全然好きじゃない!!』

勿論、圭一はその場にいた。は、と静まった教室で圭一を見れば凄く傷ついた顔をしていて。…勿論、その日から私達の間に口数は減って、自然に別々に登校するようにもなった。

そのあと、私達は中学校に進学して。圭一は私より小さかった背がグンと伸びて、今では見上げる形になった。全く変わらない私とは違って、圭一は女子にも人気が出てきて…

少し遠くに感じた高校二年生の春、圭一に告白された。断る理由もないし、私は告白を受け入れた


「どうしたの、佐倉?」
「峰くん…」

ファイルを片手に声をかけたのは、同じクラスの峰葵くん。生徒会長で、クラスの学級委員に、写真部の副部長といつも何かしらで忙しそうな男の子

「いつものよ、いつもの」
「!いつものって何よ、いつものって」
「ああ、"いつもの"ね」
「峰くんまで…」

みんなの意地悪
む、と少し頬を膨らめれば目の前に転がされた赤に黄色に、緑と色とりどりのキャンディー

「これ…」
「さっき生徒会の子達にもらったんだ。あげるから、元気出しなよ」

フルーツ味、好きでしょ?
なんてにっこり言われれば、私は感激のあまり抱きついてしまう。

「峰くんダイスキ!!」

あーあー
女、松下奈美恵は二人の微笑ましい光景を横目に少し離れた佐倉圭一の席に目を向ける。

(すっごい、怖い顔)

圭一はニヤニヤ笑う奈美恵と目が合うと、すぐに視線を前へと戻した。

あーあー、
なんて、先が思いやられるカップルなんだ

袋の中の最後のポッキーは短くなっていて、奈美恵はそれを口に放りこんだ。

< 1 / 3 >

この作品をシェア

pagetop