完璧上司は激甘主義!?
「高畑ミミ……」

応接室の前で立ち止まり、つい呟いてしまった。

あれからすぐに会社に戻った私に部長が言った言葉は、信じられないものだった。
なんでも私を訪ねて高畑ミミが来ている、と。

ウエディング関係従事者のみならず、高畑ミミと聞けば誰もが分かるくらい彼女は有名人だ。
もちろんそんな有名人と顔見知りなわけがない。
第一彼女は表舞台に立つことはなく、その素性はベールに包まれているのだから。
なのに、どうして私を訪ねてきたのだろうか。

興奮状態の部長を目の前で見ながらも、信じられなかった。
名刺を見せられてもピンとこなかったし。
もしかして部長ってば新手の詐欺師に騙されているのではないだろうか、とさえ思ってしまったほど。

高畑ミミの素性が分からないことをいいことに、他人がなりすましているだけなのではないだろうか。
そう思っていたものの、南課長が対応していると聞き、部長にもすぐに向かうよう言われ今こうして応接室の前にいるけど……。

正直、気まずい。
ふたりっきりではないと分かりつつも、南課長もいるのかと思うと緊張が増す。
部長に怒られちゃうかもしれないけれど、今の私にとって高畑ミミよりも南課長の存在の方が気になって仕方ない。

失恋の傷はなかなか癒えてくれないから困る。

だけどいつまでもここに立ち尽くしているわけにはいかない。
全く身に覚えがないけれど、高畑ミミと名乗る人物が私を訪ねてきたというならば、会わないと。
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