私は彼に愛されているらしい
嫉妬、か。

「もしかして、課長の時も?」

「そりゃそうでしょ。好きな人が目の前で下心丸出しのおっさんと飯食いに行こうとしてるんですよ?ふざけんなって話ですよ。」

「…その節はどうも。」

「いいえ。」

その件に関しては水曜に散々叱られたからさっさと切り上げたい。

思えばそこから変わっていったんだよね。

「そういう面も俺は当分の間は苦労しそうです。」

「あはは。お世話かけます。」

「全くですよ。」

八方美人だと言われたことも思い出して私は乾いた笑いで返す。この性格は治るだろうか。分からないけど竹内くんは私の性格を否定するつもりはないようだから安心した。

諦めたようなため息に近い苦笑いを見せて私の顔を覗き込んだ。

「…もう否定しないんですか?」

その意味が分からず一瞬止まったが、すぐに理解して微笑む。

「しない。流されることにする。」

「そりゃ好都合です。」

意地が悪そうな笑顔も悪くない思え始めたことはまだ秘密にしておこう。また色々計算されて罠を張られたら大変だ。

竹内くんの方がよっぽど私を振り回しているに違いない。でもそれは認めてくれないだろう。

まだまだ竹内くんの本質的なことは分からない。優しいのか、意地悪なのか、本当に二面性があるのか、私が怒らせているだけなのか、彼の本当はどこかにある筈だ。

でも、ただ一つだけ確信をもてることがある。

「行きますか。夜は長いですよ?」

「語り明かすんだよね?」

片眉を上げて竹内くんは笑った。

私を振り回す竹内アカツキくん、彼が差し出した手を取り私たちはまた歩き始めた。

特別な関係になった竹内アカツキくん、自惚れじゃないって信じたいの。


私は彼に愛されているらしい。
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