私は彼に愛されているらしい
「でも、逃したくないから…あんなに必死になったんだとは思います。」

これは俺の本音だ。

そうじゃなきゃ社内恋愛なんてハイリスクを背負う訳がない。そうしてでも逃したくない人だったから俺はあそこまで頑張ったんだと自分でも分かってるんだ。

前を向いたままだった片桐さんの顔が俺の方を向いている。強さを含んだ俺の言葉に息を飲んだのが分かった。

「…持田さんが言い出したにしろ、そうでないにしろ、この件で清水さんが結婚を意識するのは明白ですよね。」

そう言って俺は片桐さんの方を向いた。

目を見開いたまま俺を見つめて固まっている片桐さんに最高の笑顔を見せてやる。

うん、これも1つのきっかけなんだよな。

「これを機に腹を括るのもいいかもしれません。」

結婚はタイミングなんだとよく聞く話だ、もしこれが俺のタイミングなのだとしたら逃すと次は無い様な気がする。

それだけは御免だ、俺は彼女を逃すつもりはない。

「まずは本人に聞いてみないといけませんけどね。」

「まあ、そうだな。」

片桐さんは片眉を上げて笑みを浮かべると楽しそうにコーヒーを口に含んだ。俺もそれに倣ってコーヒーを味わう。

「フラれたら面白いな。」

「僕は面白くありません。」

「にしても…そうか、みちるちゃんが結婚か。」

入社当時から可愛がっていた片桐さんが感慨深そうに呟いた。一時は不倫疑惑も出たらしいがそんなデマはあっさりと消え去ったらしい。一体どんな技を使ったんだよこの人は。

目立って片桐さんの名前が出てくるが、それ以外のベテラン勢も皆して清水さんを可愛がっていたと聞く。

仕事に対する姿勢が最近の男連中よりも男前だと感心した人が多かったようだ。寿退社を狙う女性もまだ少なくない中で、設計士ではないにしろ真剣に仕事に取り組む姿は高評価を得たらしい。

事実、その姿勢に俺も惹かれたんだ。

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