私は彼に愛されているらしい
「どうなんだろうな。」

「ねえ~。」

俺の適当な言葉にも不満は無いようで、どうやらこの話題もただ聞いてほしかっただけの様だった。

気になったから口にして心の中をスッキリさせたかったんだろうな。俺の意見とかもどうでもいいんだろうな。

つまり数時間前の持田さんと今のみちるさんは同じ様な気持ちだったということだ。

でもそんなこと俺にはどうでもいい。

「あ、餃子だすね。」

そう言ってみちるさんは水無しで簡単に焼ける冷凍餃子の袋を取り出して冷凍庫の扉を閉めた。

すっかりプランを崩された俺は野菜を切る力も無くして彼女の動きを見る。

何の為に家で料理をするのか知ってんのかよ。

面と向かって食事をしている時よりも、料理をしながら話す方が畏まらなくていいんじゃないかと思ってそうしたんだ。片桐さんの話を聞く限りじゃみちるさんに前向きな思いは感じられなかったから。

みちるさんに考える余裕を与えたくて料理は俺が引き受けることにしたんだよ。その辺の気持ちの作り方は俺の方が上手いから。

でも、だな。

「はい。どうぞ。」

あんたはそんな俺の気を遣ったプランを見事に亡き者にしてくれた。

何の考えもなく、無防備に、そして無敵に俺にその話題を吹っかけてきやがったんだ。

「覚悟はあるんだろうな。」

「…え?」

自分で思った以上の低い声は気になったが出てしまったものは仕方がない。

みちるさんが不思議そうに首を傾げていたがもう気を遣うのも馬鹿馬鹿しくなった。

そういやそうだったよ。

この人はこういう人だった。

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