私は彼に愛されているらしい
みちるさんと目を合わせることが出来ず、視線を落として、言葉も足元に落としてしまった。

これは俺の正直な、正直すぎる俺の気持ちだからだ。

「自分のことは自分がよく分かってるから。…だから俺は結婚には向いてないって知ってる。」

こんなことを告白して彼女はどう思うだろうか。

でもずっと抱えてきた思いがあったから今までは随分と薄情な付き合いをしてきたんだと自覚してるんだ。そして今もすぐ傍で瞬きを重ねている女性を意識するまでは疑わなかった生き方でもある。

「…そんなことないと思うけどな。」

透き通るような声に惹かれて視線を上げると彼女はまた口を一文字にして小さな唸りをあげた。

「私は向いてないとは思わない。だってアカツキくん思いやりがある人じゃない?色んなことに気付いてくれるし、自分よりも相手を大切にしてくれそうだもん。」

みちるさんが口にしているのはすべて褒め言葉だろう。でも俺は素直には喜べず苦笑いをしてしまった。

何だろうな。

みちるさんに考えてもらう筈の計画がいつの間にか俺が考える方向に変わっている。本当はこんなこと曝け出すつもりはなかったのに。

「気付く…か。」

その言葉を使わせてもらうとしたら、俺は本当の意味で気付く人なんだと思う。

「なに?」

俺からの熱視線に絶えかねたみちるさんが首を傾げて尋ねてきた。少したれ目の、大きな瞳には今、俺が映っている筈だ。

その強い眼差しは、本当のことを言うと少し前までは真正面から向き合うのは怖いと思っていた。

羨ましくもあり怖くもあった憧れなのかもしれない。

「綺麗な目だな。」

「はあ!?」

大きな目をさらに大きくさせてみちるさんは顔を真っ赤にした。

でも残念ながら冗談ではない俺の表情は真剣なまま変化はない。それに合わせて彼女の態度もすぐに落ち着いていく。

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