初恋はカフェ・ラテ色
「さ、桜子ちゃんに電話してみるね。ああっ、もう帰らなきゃ」

 腕時計を見ると20時を回っている。

「気をつけて。お母さんにちゃんと明日の食事はいらないって言うんだよ」

スツールから立った私に洋輔さんはきっぱり言った。

本当に食事をしたいと思ってくれているんだと思ったら声が出ず、ただコクコクと頷くことしかできなかった。

自分の身に起こったことが信じられない。

ぼう然となったままレジに向かい、奈々さんにお金を払う。

「心春ちゃん、いつもありがとう」

奈々さんの前でも声が出せずに深く頭を勢いよく下げると、店を出た。

明日、ふたりで食事……。

この8年間、ふたりで食事をしたことがなかった。いつも誰か一緒だった。

いや、もしかしたら明日の食事だって、誰かがいるかもしれない。私が勘違いしているだけなのかも。

それでも久しぶりに一緒に食事をする。

それは足が地面につかずにふわふわ浮いているようだった。


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