初恋はカフェ・ラテ色




「ただいま」

玄関で小さく声をかけ、シーンと静まり返った家に入ると、物音をたてないように自分の部屋へ向かう。

現在の時刻は23時で、サラリーマン家庭ならまだ起きているはずだけど、我が家は朝が早いから両親はすでに眠っている。

古い家は階段を歩くだけできしむ音がする。3代続けば家だって、どこもかしこも傷むのはしかたない。

明日の朝お風呂に入ることにしてTシャツとショートパンツに着替える。

ドレッサーの前に座り、化粧落としシートで顔をまんべんなく拭く。鏡に映るのはさえない自分の顔。

あの後、カフェへ行くと後片付けをしていた奈々さんと太一がいて、私を見ても驚かなかった。

それどころか太一はムッとした表情でモップがけしていた。

すみの4人掛けのテーブルにランチョンマットが置かれて、フォークとスプーンがセッティングされていた。そこに座らされると、洋輔さんはカウンターの裏にある厨房へ向かった。
 
「今までなにしてたんだよ」

つかつかとやって来た太一に突然言われて面食らう。

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