ASIN(微BL)
「俺をここで雇ってください!!」


 寒さの影も忍び始めた春四月の日曜日 。俺はある事務所の床に正座をして目の前のソファーに腰掛ける二人の男性に勢いよくそう頭を下げていた。 頭を下げられた側は一人は焦った様に俺と隣を見合わせ、もう一人は少し怒った様に無の表情で黒渕メガネの奥の瞳で俺を見下ろしていた。


「……雇ってくれと言われても」


 やや間があってから、メガネをかけた方が溜め息混じりに口を開く。


「貴方はまだ中学生ですよ鷹くん。アルバイトは出来ないでしょう?」

「べっ、別にちゃんとしたアルバイト代 はもらえなくていいんです! ただその代わり叔父さんの家に暫くいさせてもらえれば……」

「僕の家に? 貴方にはちゃんと帰る場所があるじゃないですか」

「あります。ありますけど神宮は俺の家じゃないし……。だからって立花の家に帰ることは出来ないし。だから……」

「だから、なんです? だからここへ来た、と? ここへ来ても貴方が望むような事を僕はしてあげられませんよ」

 お帰りなさい、と棘を含んだ言葉の数々が投げ付けられる。叔父さん……櫻木美月はそう言いながら更に整った顔を怒りに歪めていく。それを下から見上げながら「でも」と続けた。

「でも、他に頼れる人が俺には……」

「僕も頼られては困ります。そんな、家出の手伝いだなんて。姉さんに知られたらなんて言われるか」

「家出じゃない! ちゃんと順をえてから神宮を出るんだ、そしたら家出にはならない。けど中学生じゃ一人暮しは出来ないから……」

「それはそうでしょう。どこの不動産がそんな中学生相手に部屋を貸しますか。バカを言ってないで家に帰りなさい」

「嫌だ! 絶対に嫌だ!!」

 
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