くれなゐの宮


「出ろ。」



黒い布で顔を隠した大男に襟を掴まれ、半ば強引に外へと放り出された。

眩しく照りつける太陽の光を、手で遮ろうとする。

しかし縄で縛られた両手が胸から上へと上がることはなく…眩しさに顔をしかめた。




一歩足を進めるたびに、同じ境遇の老若男女がこちらを向く。

数人の役人に囲まれ連れて行かれるおれを、彼らはとても悲しそうな目で見ていた。


目を合わせては駄目よ、と、子どもの顔を隠す母親や、手を合わせ経を読む者。

皆次は自分ではないかと怯えて暮らしている。


生憎おれはたった一人だ。

ここに家族も友人もいない。



憐れむ人はいても、悲しむ人は居ない。
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