くれなゐの宮

「贅沢…?どこがですか?」


「ああん、おめぇどの口が言ってやがんだコン畜生め…。お前そりゃあ贅沢だろうがよ…。
毎日シキガミ様に会えるわ、二人きりで過ごせるわ、宮女たちにチヤホヤされるわ…。
おまけに剣は使えるし、凄腕だし、色男ときた。」


「はぁ。」


「はぁ、じゃねぇよ…!全く、脳ミソまで贅沢なやつだ…。」


ナズの言っている事はよく分からないが、おれの思っていた以上に話は瞬く間に大事となり、宮中に広まってしまったようで。

良いんだか悪いんだか…正直どうしていいのか分からず戸惑うばかりだ。


「そう言えば、もう傷は良くなったのか?呑気に風呂なんか入っちまってるけど。」


「ええ、殆どすっかり。まだ打撲や切り傷が少し残ってますが…。」


おれの返事に、え、どこ?と覗き込むナズに腕を見せれば、彼は大袈裟に顔を引きつらせた。


「剣だなんて俺には縁もゆかりもねェ話だよ。」


そう皮肉げに言い、ナズは湯船から上がると、大きな欠伸をかまして湯けむりの向こうに去って行く。

そんな彼に続いて、おれも風呂を後にした。

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