くれなゐの宮


「どうして、ですか?」


あまりに驚き、問いかける。

彼女は少し困ったような表情を浮かべ、小さくした唇を噛んだ。

きっと彼女なりの戸惑いがあり、躊躇いもあるのだろう。


「長い間、ヒメ様の宮女として仕えてまいりました。ヒメ様は私たちに多くを語っては下さいません。
しかし…見ていれば自ずと分かってくるのです。
ヒメ様がどのような気持ちでここにおられるのかを…。」


眉は下がり、目は潤む。

しかし口元には優しい笑みが浮かび…その表情はまるで母のようだ。


「宮人長が何故お許しを下さらないのかも良く分かります。ヒメ様は、神です。我らの神なのです。崇高で…お美しい、絶対的存在の…神であり…私たちとは違う。

…そんなことは分かっているのに…。」



次第にその瞳からぽろり、ぽろり…と涙がこぼれ始める。
頬を伝う涙を服の袖で拭う事もせず…コウは優しく泣いた。

まるで自分の意志と目の前の矛盾と、戦うように。


「けれど、私たちとヒメ様は悲しいほど良く似ていらっしゃいます。姿は違えど…その心は…私たち人間と…何も変わらない。

だから辛いのです。

せめてヒメ様にも…私たちと同じ景色を見せて差し上げたいのです。」

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