誘惑~初めての男は彼氏の父~
 私としては、一度きりの人生、まだ若いんだし、もうちょっと冒険してみるのも悪くないとは思うのだけど・・・。


 「あいつは確実な、地に足のついた将来を思い描くタイプだから」


 私の隣で、和仁さんが答える。


 「僕を反面教師にしてるんじゃないのかな。自分の好きなことばかり追いかけて、家族をないがしろにするような生き方はしたくないって」


 その通りかもしれない。


 母親の苦悩を一番近くで見ていた佑典は、自分は絶対あんな風にはならないと繰り返している。


 大きな夢を追いかける代償として、たくさんのものを犠牲にするよりも。


 愛する人とささやかな幸せを紡いでいきたいって。


 私と・・・。


 「理恵は何か趣味とかやってないの」


 私を腕の中に包みながら、和仁さんが尋ねてきた。


 「趣味ですか・・・。特には」


 思えば私は、大学とバイト、そして佑典とのデートのいずれかを繰り返している毎日で。


 それ以外の何かを一人で行なうという習慣が、長らく欠如していたような気がする。
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