誘惑~初めての男は彼氏の父~
 「そうなんだ・・・」


 佑典の言葉を、何気なく聞いているふりをして。


 私は一つの未来予想図を胸に描いていた。


 将来私は、このまま佑典と結ばれて家庭を持ち。


 久しぶりに訪れた実家で、和仁さんとその再婚相手にご挨拶をする。


 私より若い再婚相手に・・・?


 「いや・・・!」


 それ以上の想像を、頭が拒否した。


 衝動的に佑典に抱きついた。


 「理恵?」


 私の行動が理解できず、佑典は戸惑っている。


 「怖いの」


 「えっ、何が」


 「そばにいて・・・」


 「ずっとそばにいるのに」


 こうして腕の中にいるのに、なぜさらに私がそばにいてほしいとねだるのか分からないまま、佑典は私をそっと抱き続けていた。


 「夏休みも、あと少しだね」


 私たちは国立大なので、十月に入る頃まで夏休みが続く。


 今年の夏休みは、付き合い始めて初めて迎えた夏だった。


 何もかもが初の経験で、迷いと発見を繰り返しながら日々を積み重ねてきた。
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