誘惑~初めての男は彼氏の父~

予兆

***


 「浮気や不倫がバレるきっかけって、今は大部分が携帯電話のメールからだっていうよね」


 私を抱いた後、濡れた体を名残惜しそうに撫でながら和仁さんがつぶやいた。


 「・・・置きっぱなしの携帯電話の通信履歴や送受信履歴を、相方が盗み見して発覚・・・ってパターンですか」


 気だるさと同時に、まだまだ触れられていたいという思いを抱えながら、私は答えた。


 「そんなのが大部分だね。僕だったらどんなに心配でも、理恵の携帯なんて見ようとも思わないけど」


 「私を信じているんですか? それとも和仁さんにとってそんなの、どうでもいいことだからですか・・・?」


 「余計なことなんて、知らなくてもいいって思う。今この腕の中の理恵だけは、確かなものなんだから」


 「・・・」


 確かな温もりが素肌から伝わる。


 それだけで十分なのは間違いじゃない。


 「それに・・・。他人の電話や手紙など、プライバシーを覗くのはどうかなって思うし。いくら家族や恋人だとしても」


 家族でもなければ恋人とも呼べない、そんな私は和仁さんのどんな存在なのだろう・・・とふと考えてみたりもした。


 「そんなに携帯の中味見られたくないのなら、ロックでもかければいいんじゃないでしょうか」


 「ロックをする、つまり中を見られたくない、すなわちやましいことをしている・・・ってイコールで結びついてしまうよね」
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