誘惑~初めての男は彼氏の父~
 「そんなわけで君の将来の邪魔になっちゃいけないと思って、僕は身を引いたんだ」


 そう語る和仁さんの声は切なげ。


 たぶん・・・策略。


 「私、和仁さんを捨てたとか逃げたとか、そういうつもりは全くありませんでした。ただ・・・この関係は不倫だと思って。不倫なんて絶対嫌だったし」


 「僕は八年前からずっと独身だけど」


 「その件に関しては、佑典から事情を教えてもらいました。私、そんなことになっていたの知らなくて」


 「まあ僕も、息子がいること伏せてたからね。君を口説いている時に、同世代の息子がいるなんて打ち明けられたら、普通引いちゃうよね」


 「・・・」


 あの時は和仁さんが、子供(つまり佑典)と電話で話しているのをたまたま聞いてしまい、イコール奥さんがいる、不倫だと決め付けた。


 だけど奥さんはすでに亡くなっていた。


 その時あれが不倫じゃなかったと知っていても・・・自分とそう年の変わらない息子がいると打ち明けられて、平常心でいられただろうか。


 たとえ相手が、いくら素敵な人だったとしても。
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