サヨナラからはじめよう
『ちょっと待ちなさいよっ!』

何故かはわからない。
けれど気が付けばそう叫んでいた。
司は悲しげな顔でゆっくり振り返った。
もう一度謝罪の言葉を口にしながら。

その姿にまたどうしようもなく罪悪感を覚えてしまったのだ。

元々自分は情に脆くて流されやすい。

司と付き合ったのも、彼の情熱に押されたからだったと言っても過言ではない。
困っている人を見れば放っておけないタチで、
人からはよく損な性格だと言われたけれど、
司だけはそんな私が好きだと言ってくれた。

・・・素直に嬉しかった。
自分を認めてもらえたようで。


だから、記憶がないと困っているこの男を目の前にして、
寒空の下放り出すことなど良心が許してくれないのだ。
だから私は引き止めてしまった。

そう自分を納得させた。

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