サヨナラからはじめよう
「はぁ・・・」

着替えに部屋に戻ると盛大な溜息が出た。

私は一体何をやってるんだろうか?
あんなに会いたくないと徹底していた男を、
記憶喪失とはいえいとも簡単に同居を許してしまうなんて。

やっぱり何年経っても根本的な自分の駄目っぷりは変わらないのだろうかと、
またもう一度溜息が零れる。


・・・でも正直なところ、全てが悪いことばかりというわけでもない。
司は翌日から実に献身的に家のことをやってくれる。
当然個人的なものには一切ノータッチだが、
風呂トイレ掃除や料理など、忙しい自分に変わって何でもやってくれている。
まるでご主人に従えた忠犬のように。


思えば昔からそうだった。
基本的にとても優しい男だった。
いつでも甘やかしてくれたし、
何でも女にやらせるというスタンスは決して取ろうとはしなかった。
一言で言うならフェミニストだったのだ。

だから尚更言い寄ってくる女の影は後を絶たなかった。


「・・・駄目駄目。昔は昔!大切なのは今!」

そう言って思考を中断すると、部屋着に着替えてリビングへと出て行った。
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