向こう側
恐る恐る目を開けると

「え、遠藤さん?!」

あたし、抱えられてる。

「大丈夫か?」

「あ、はい。すいません」

今さらばくばくして気のきいた言葉が出てこない。

「女の子なんだから無理して階段使わなくていいよ。
今日足痛そうだったし」

そうなのだ。新しい靴で多分靴擦れ起こす寸前だったのだ。

よいしょ、と、あたしを立たせてくれて

「定時までとりあえず頑張れよ」

って頭ぽんぽん撫でられた。

気をつけてね、と彼は去っていったが

あたしは胸のばくばくが全然収まらなかった。



これで恋に堕ちた。

階段に落ちなかったのに

恋には堕ちた。

いいのか悪いのかわからないが

一つ言えるのは平凡な毎日が少し彩りだしたことだ。
< 4 / 35 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop