天然ダイヤとイミテーション・ビューティー ~宝石王子とあたしの秘密~
「お、お客様、どうかお待ちください! こちらの無礼は如何ほどにも謝罪いたしますので!」


 栄子主任が大慌てで、この場を収束しようと試みる。

 でもお母さんは困ったように頬に手を当て、首を横に振った。


「栄子ちゃん、御免なさいね。和クン、なんだか今日は機嫌が悪いみたいだから出直すわ」

「お、お客様!?」

「また来るわね」

「萌香、行くぞ。もっといい店でもっとでかいダイヤ買ってやるから」


 お嫁さんはオロオロしながら、みんなの顔を交互に見ている。

 そして最後にあたしの顔を見て、何かを切実に訴えるような目をした。


「おい萌香! 早くしろよ、行くぞ!」

「は、はい」


 促されて、お嫁さんは伏し目がちに従った。

 なんだか売られていく子牛みたいに見えて、やっぱり可哀想だった。

 あたしはショーケースから離れていく和クンの背中を見送りながら、心の中でさんざん毒づく。


 ふん! 帰れ帰れ! そして未来永劫、生涯二度と来るんじゃない!

 こいつが店から出たら、真っ先に塩を撒かなきゃ。

 確か控え室のテーブルに岩塩が置いてあったわね。

 ミネラルが豊富でご利益ありそうだから、初雪と見紛うばかりにタップリ地面に撒いてやる!


 和クンは店のドアから出て行く直前、クルッとこっちを振り返り、あたしを見て笑った。


「じゃ、商売上手の宝石鑑定士さんによろしく~。新人にそんなこと教えてるヒマがあるなら、てめーがもっと宝石の勉強しろやって言っといて」

「……!!」
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