秘密が始まっちゃいました。
朝食を終え、もう一杯コーヒーを飲むともう時間だった。


「じゃ、行ってきます。望月、色々ありがとな」


玄関で靴をはきながら、荒神さんが言った。なんだかしょんぼりしている私はうまく笑えているかもわからない。


「お気をつけて。頑張ってくださいね」


「ん。あ、そうだ」


私に背を向けかけた荒神さんが振り向いた。

そして、その勢いのまま私を抱き寄せた。


なに?

何事?


これは……ゆうべの夢の続き?



「望月、イッコだけ聞いて良い?」


身体に直接、荒神さんの声が響く。
私は全身が火照っていくのを感じた。

何度もしたように彼を突き飛ばせばいい。
両手を胸に当てて、ぐっと肘を伸ばすだけ。
ほら、彼の抱擁はそんなに強いものじゃない。

頭で考えるのに、身体は動いてくれない。

荒神さんの匂いだ。
船の上で抱き締めた時と、同じ匂いだ。
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