秘密が始まっちゃいました。
荒神さんはアプローチの機会をくれなんて言っていたけれど、簡単に了解し過ぎた気もする。キスに釣られたようには見えていないだろうか。
私の気持ちがはっきりしない以上、やはり好意を持ってくれている男性と軽はずみに出掛けるのは……。

私の煩悶を完全に無視したタイミングで、荒神さんが手を握ってきた。

私は慌てて、顔を上げる。


「荒神さん、手、濡れます」


私の手は濡れない。彼が私の傘の中まで腕を伸ばしているからだ。
でも、荒神さんの肘は濡れてしまう。


「いいじゃん。ほら、あっちのカップルも手繋いでるよ。あーいうの羨ましいんだよ」


見れば、少し前を歩くカップルも彼氏の方が彼女の傘に手を伸ばし、無理矢理手を繋いでいる。

茶髪の彼氏が嬉しそうに彼女を見下ろしているのが見える。
髪の長い彼女の方は顔が見えないけれど、きっと私と同じように彼の腕が濡れる心配をしているだろう。


「日冴と手を繋げる機会なんだから、逃したくない」
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