おかあさんになりたい。 ~天使がくれたタカラモノ~
「違うだろ。そんなこと言ったらあの子がかわいそうだ。」


陽は真剣な顔をして、言葉を続ける…
私が声を挟めないように。



「おまえだから、麻那のお腹が良いから来てくれたんだろ?嫌だったら最初から来てくれないはずだよ。」


真っ直ぐな目で、必死に話し続ける。
その真っ直ぐな気持ちが、厚い壁の中に隠してしまった私の心に届き始めた。



本当に…?

私のところだからあの子は来てくれたの……?



私の曲がりくねった心が…少しずつ動き始めた。




「そう……かな………?」


「そうだよ。当たり前だろ。さ、晩ごはん食べるよ。」



冗談を一蹴するように、なんでもない話を聞き終えた時のように。

陽はすぐにいつものように着替えをはじめた。





そうかな…



そう思ってもいいかな…



きっと次はあなたが来てくれるって……




あれは幸せの前のちょっとした予行練習だったって、少しだけ希望をもっていいかな………






「……今日は焼肉つくったんだよ。」


小さな笑顔をつくって用意しておいた焼肉の皿をおく。



「お腹すいた~!」

お腹をすかせた陽が笑顔でダイニングの椅子に座る。



その横に見える綺麗な三日月の空を見て、私は決めた。




もう一度。

もう一度だけ希望をもってみよう。


しっかりしなきゃ。
わたしはもうあなたのママだから…………


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