レディ・リズの冒険あるいは忠実なる執事の受難
 エリザベスは周囲を見回す。簡単に上に登れるような道は見あたらない。
「私が行くわ――何か、使えそうなものはないかしら」
 幸いなことに、と言うべきだろうか。車のトランクは落下の衝撃で開いていた。その中には様々なものがごちゃごちゃと積み込まれている。
 工具は、応急処置をするためのもの。それから、上着は彼が脱いだ物をそのまま放り込んだものか。舞台の小道具と思われる小物。

 それらに紛れてて、折りたたまれた縄があった。汚泥の中で立ち往生している車を助けるのに使う以外にも様々な使い方があるから、たいていの車には縄が積み込まれている。
「……これがあって助かったわ。これだけ長さがあれば何とかなるでしょう。私一人の体重なら支えられそう」
 エリザベスは縄の片端に輪を作って、崖の上を見上げた。ちょうど良さそうな場所に、木の枝が突き出ている。
「何とかなるわよ――まあ、見てなさいって」
 こちらに戻ってきてから使う機会もなかったが、投げ縄は牧場の男たちに教わったものだ。

 狙いを定めて上空へと放り投げる。最初の一投は失敗だった。根気よく同じ動作を繰り返し、ようやく突き出た木の枝に縄の端がひっかかった。何度か縄を引っ張って、確実に巻きついたことを確認する。
「リズお嬢さん――無茶ですって。俺だって、そこを登れっていわれたら無理ですよ」
「心配しないで。ラティーマ大陸にいた頃は何度もやっていたから」
 不安げなロイを安心させようとしたけれど、ドレスで崖をよじ登るのは初めての経験だ。履いていても何の役にも立たないから、踵の高い靴は脱ぎ捨てる。
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