レディ・リズの冒険あるいは忠実なる執事の受難
「メアリ様、エリザベス様お気に入りの焼き菓子はいかがですか? ラティーマ大陸のレシピをアレンジしたものでございます」

 パーカーは、レディ・メアリの前にクッキーのたくさん載せられた皿を恭しい動作で差し出した。どうやら主に助け舟を出してくれたらしい。
 ――エリザベスがあまりにも情けなさそうな顔で、パーカーの方を見たものだから。

「いただくわ」

 遠慮なくレディ・メアリは手を伸ばす。綺麗に切りそろえられた爪はよく磨かれて、可愛らしい桜色のマニキュアが施されていた。

「パーカー、私にもちょうだい」

 エリザベスの前にも皿を差し出しながら、パーカーはぼそりと耳元でささやいた。

「食べ過ぎでございますよ、お嬢様」
「うるさいわねっ」

 思わず声を上げかけたエリザベスに、レディ・メアリは不思議そうな目を向ける。

「いえいえ、何でもありませんわ」

 あわてて表情をとりつくろって、エリザベスは紅茶に新しいミルクを追加したのだった。
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