レディ・リズの冒険あるいは忠実なる執事の受難

料理人を起こすのは忍びないから、厨房まで静かに歩いて行ってコーヒーをいれる。
 何杯目になるのかわからないそれを流し込むと、胃がきりきりとした。
 ——この分では、長いこともたないかもしれないな。
 医師にかかってはいるのだが、彼のわかる範囲ではパーカーの胃は健康そのものなのだそうだ。
 神経性のものと言われてしまえば、苦笑いするしかない。
 
 一度気になり始めると、新聞の記事を目で追っていても頭には入ってこない。無意識のうちに、何度も同じ箇所をおっている。
 電話がけたたましく鳴り響く音がして、パーカーは勢いよく立ち上がった。
 こんな早朝に電話がかかってくるなんて、緊急事態としか思えない。電話の側で待っていなかったことを後悔しながら、階段を駆け下りた。
 
 電話をとると、向こう側からは切羽詰まった声が聞こえてくる。
「あの俳優の車に同乗……?」
 それを聞いたとたん、額に手をあててしまった。これでは、ゴシップ誌の記者達においしい餌を投げ与えるようなものではないか。
 エリザベスがリチャードといずれは婚約するであろう付き合いをしていることは、まだあまり知られてはいない。
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