レディ・リズの冒険あるいは忠実なる執事の受難
 申し訳なさそうに、少年は目を伏せた。十歳には満たないだろうという外見にはそぐわないため息を少女は吐き出した。

「ラティーマ大陸、暗黒の大陸」

 不意に彼女の口から歌うように出てきた言葉に、少年はますますいたわしそうな表情になる。

「ねえ、ヴァレンタイン」

 最後にもう一度屋敷を見つめた彼女は、今までの重苦しい雰囲気を忘れ去ったかのように口角を上げた。

「私、いつか帰ってくる。絶対、この屋敷に帰ってくるから――」

 エリザベス・マクマリー、十歳の春のこと。
 彼女は自分の言葉を必ず実行する少女だった。
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