レディ・リズの冒険あるいは忠実なる執事の受難
 彼と結婚できるとなれば全財産を差し出しても惜しくはないという令嬢も少なくないはずだ。

 私は違うけれど、とため息まじりにエリザベスは見合い相手の写真を放り投げた。

 先代の放蕩で傾きかけた家を建て直したのはエリザベスだ。

暗黒大陸とおそれられているラティーマ大陸に、父とともにわたったのは八年前のこと。

大陸では苦労したけれど、父と共に貿易の道を開きもした。今ではエルネシア王国でもかなりの資産家になっている。

 慌てて結婚相手を決める必要もないのだ。自由を失いたくないという思いも強いのだが、こうして訪れてくる度に見合い相手を押しつけられるのもうんざりだ。

 婚約だけしておけば叔母がうるさく言わないのなら、婚約だけ整えてもいいような気もする。そうなったらそうなったで、式はいつにするのかとせっつかれるのもまた事実なのだろうけれど。

 覚悟を決めて、エリザベスは放り出した写真をもう一度取り上げた。先方から断られるという可能性だってあるのだ。一回くらい顔を合わせてみてもいいだろう、と思ったのはたぶん写真の彼に好感を覚えたから。
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