レディ・リズの冒険あるいは忠実なる執事の受難
「……とめませんよ」

 エリザベスにむけられた言葉であるのはわかっているのだろう。それでも、パーカーは律儀に男の言葉に返してみせた。
 
「お嬢様をおとめできる人がいるのか怪しいと思いますね——それにアヴィンセル様を返していただかなければならないのは事実ですから」

「——まあいい。時計をもらおうか」

 軽く肩をすくめた男は、エリザベスの方に向けて手を振った。誘われるように、エリザベスは一歩前に出る。

「……お嬢様」
「大丈夫」

 時計を男の方へと突き出したまま、エリザベスはもう一歩進んだ。

「先に時計を——」
「リチャードを見せなさい」

 男が口笛を鳴らした。頭巾の中から聞こえるくぐもったその音に、昼間侵入した時、エリザベスが隠れていた部屋の扉が開かれた。

「リチャード!」

 ぐったりとして縛り上げられたリチャードは、意識が朦朧としていて自力で立つことができないようだった。突き飛ばされてエリザベスの前へと倒れこむ。

「連れて帰りたまえ」
「持っていきなさい。私には必要のないものだもの」

 エリザベスは、手にしていた時計を放り投げた。男は手を伸ばして、それを空中でキャッチする。

 その様子を見て、エリザベスは深々とため息をついた。

「なぜ、こんなことをしたのかしら……ダスティ?」
「何でわかってしまったのかな?」

 くすくすと笑いながら、彼は覆面をとった。中からあらわれた彼の表情は、明るいものだ。それを放り投げて、ダスティは懐中時計をエリザベスの目前でぷらぷらとさせてみせる。
 
「そんなの——声を聞けばわかるわよ」

 だって、大好きだったのだから。
 
 パーカーは二人の会話にはかまわず、ナイフでリチャードの縄を切り、軽く頬を叩いて意識を取り戻そうと試みていた。

「アディンセル様、しっかりなさってください」

 パーカーが声をかけるけれど、返答はない。ぐったりとしているリチャードに手を貸して立たせた。
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