レディ・リズの冒険あるいは忠実なる執事の受難
 トロイ刑事はメモ帳を手にしたままだ。手にした鉛筆の反対側でぽりぽりと頭をかいた。信じられないとため息をもう一度ついて、エリザベスは信頼できる使用人を呼び寄せた。

「……パーカー。ひょっとして懐中時計が無くなっていたりしないかしら?」

「懐中時計、でございますか?」

「そう……金の懐中時計。お父様があちらで買ったのだけれど……私には必要ないから」

「金、というと相当な値打ち物ですな?」

 重大事件になりそうだと、トロイ刑事は身を乗り出す。エリザベスは、まっすぐにヘザー警部を見つめた。

「お父様が蚤の市で買い求めた品です。本来なら大した値打ちではないでしょう。金、と言っても混ぜ物ですもの。実際そう高い品ではありませんでした。でも……」

 意味ありげにエリザベスは言葉を切り――効果的な間をおいた上で続けた。

「蓋が加工されていて、そこに聖骨がはめこまれているというふれこみでしたわ」

 むろん、相手の表情をうかがうのも忘れない。エリザベスの言葉に警官二人は顔を見合わせた。聖骨、という言葉に彼らも心当たりがあるようだ。
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