レディ・リズの冒険あるいは忠実なる執事の受難
「……さあ、居間でお茶にしましょう。マギー、あなたは下がっていいわ」

 マギーを下がらせたレディ・メアリは、エリザベスをお茶の席へと誘ってくれた。この屋敷の主であるヴァルミア伯爵は留守にしていて、お茶の席にいるのは二人だけだ。

「叔母様」

 レディ・メアリはマナーを確認するように、背筋を伸ばして座ったエリザベスの身体に素早く視線を走らせる。

 それには気づいていないふりをして、エリザベスは甘えた声を出した。叔母であるレディ・メアリには甘えておくのが一番いい手だというのは、十分以上に承知している。

「リチャード・アディンセルってどんな方?」

 とりあえず、婚約者候補の話をふってみることにした。名前や家柄やらは知っているが、彼自身がどんな人物なのかといったことについては何も知らないのだ。

 紹介者である叔母に聞くという手抜きな方法を使ったのは、記事の切り抜きを眺めたり、留守にしている間の仕事について手配したりしていて、忙しかったということもあるのだが。
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