レディ・リズの冒険あるいは忠実なる執事の受難
 結婚したなら、今のような生活を送ることはできなくなるのはわかりきっている。

「お腹すいたではありません、お召し替えを。マギー、エリザベス様をお連れしなさい」

 着替えるまで朝食は出てこないとさとったらしく、エリザベスはしぶしぶ食堂を出た。勢いよく歩いていくので、空色のワンピースの裾が激しく翻っている。

 それを見送ったパーカーは、胃のあたりを押さえた。胃が痛い。つい今しがた胃薬を飲んだはずなのに。

 手と顔を洗い、再び食堂にあらわれたエリザベスは、別人のような姿になっていた。あざやかなペパーミントグリーンを着こなせる人間はそうそういないだろう。

 たぶん、エリザベス・マクマリーは世間一般の基準からいっても相当な魅力の持ち主だ。エメラルド色の瞳が印象的な顔は文句なしに整っているし、生き生きとした表情は彼女の魅力を最大限に引き出している。

 たいそう旺盛な食欲の持ち主なのだが、きゅっとしまった腰は、大半の女性とは違って食事を抜いてまで細くしようとした結果ではない。

「……新聞を出してもらえる?」
「かしこまりました」

 先ほどのやり取りなど忘れたかのようにエリザベスはテーブルにつく。
 マクマリー男爵家の朝食は、毎朝届けられるゴシップ紙から始まるのだ。
 
 
< 6 / 251 >

この作品をシェア

pagetop